お月見の季節ということで、月探査・開発に関するコラムを短期集中連載で
お届けしております。
 第三弾は、「ヨーロッパ宇宙機関のムービー勝手に応援全訳」です。

 今回ご紹介するのは、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)がつくった「Destination:Moon」
という月探査の意義と歴史、そして近い将来の計画を説明したムービーです。
 オリジナルサイトでムービー埋め込み用のコードをご親切にも提供してくれているので、
ありがたくこちらに貼り付けさせていただきました。


オリジナルのサイトESAのムービー公開ページ [英語]はこちら
http://www.esa.int/spaceinvideos/Videos/2015/01/Destination_Moon

 タイトルを訳すと、「目的地:月」とでもなるのでしょうが、英語のdestiny(目的地)
の元となる動詞「destine」は「運命づける」という意味があり、また、仲間の
名詞には「destiny = 運命」もあるので、タイトルには、「人類の次のフロンティアとして、
宿命的に目指すべき場所」というようなニュアンスも込められているように思います。

 このムービーは2015年1月18日に公開されました。
あまりの出来のよさに、世界の人々や、日本の多くの宇宙関係者が絶賛!!
しかし、全編英語、かつ、月科学の基礎知識がないと訳しにくい部分も多々あるので、
日本ではあまり話題にならずにおわってしまっております。

もったいない!

ということで、勝手に全訳して公開させていただきました。
 もし、ESAから「勝手に訳しちゃ困る」とクレームがついたら引っ込めますので
期間限定公開となるかもしれません。

 以下に全訳をのせます。
 ところどころ、経過時間を挿入してありますので、
ムービープレーヤーの時間表示を参考に、どこの部分かを解釈してください。

 このムービー、英単語の選択や言い回しが、とても情熱と理想と自信にあふれていて
かっこいいのですが、私の訳だと良い雰囲気が半減してしまってます。
 しかし、私が言い回しをへたに工夫すると、どんどん原文から離れてしまって、
どこを訳しているのかもわからなくなりそうなので、あえて直訳風にしてあります。
英語で分かる方は、私の訳にとらわれず、原文をお楽しみください。
(そして、誤訳があったら教えてくださいね (^_^) )

 ちなみに、なんと言っているのか聞き取れないところも複数箇所あったのですが、
そこは、スターウォーズ関係の専門書やスピンアウト小説の翻訳で知る人ぞ知る
村上清幸氏に聞き取ってもらいました。
 感謝!

 拙著「世界はなぜ月をめざすのか」を読んで、「この著者は、何を夢物語みたいなこと
を語るんじゃ!」と思われた方もいらっしゃるかも知れません。
 しかし、このヨーロッパ宇宙機関の広報ビデオを見れば、夢物語のような未来が今まさに
大真面目に切り開かれつつあることがわかるかと思います。


 前置きが長くなってしまいましたが、それでは、ムービーをお楽しみください!


------------ 以下、全訳 -------------------------

0:00
ヨーロッパ宇宙機関は、地球周回軌道を超えて人類をさらなる遠い宇宙へ旅立たせるために
働いています。我々のこの旅路の次の目的地は、「月」です。

0:18
1960年代と70年代は、宇宙探査にとって驚くべき時代でした。
アメリカのレンジャー計画は、最終的に月に激突する直前に、月のクローズアップ画像を
撮影しました。

0:30
NASAのサーベイヤー計画は制御された月面への軟着陸をやってのけました。
そして将来の有人月探査の準備として、月表面の土壌の性質を調べました。
ソ連のたくさんの着陸機や探査車が月面の多くの場所を訪れました。そして、そこで、
科学的な探査を行い、月面を走り回り、試料を地球に持ち帰りました。

0:55
しかし、この時代の月探査の頂点に立つのは、アポロ計画です。
それは、太陽系の他の天体に人類を着陸させた、人類史上最初の、そして唯一の
計画でした。
それでもまだ月のほんの一部分を探査したにすぎません。

01:16
ほとんどの探査は月の表側(訳注:地球の側)で、また赤道周辺の地域でした。
また、地球に持ち帰った試料のほとんどが、特殊な場所のものであったことが
わかってきました。複雑で別の場所(訳注:その地域の地表ではない)から運ばれて
きたと思われる化学成分を持つ地域だったのです。例えばその地域は、
カリウム、リン、やトリウムなどの希土類元素が濃集しています。
そして、月の広大な部分が、探査されないまま残っています。
未探査の地域には、裏側(地球に面していない側)の全ても含まれています。

1:43
一つ確実に言えることは、もし我々が月を理解したいのであれば、
我々は月に戻らなくてはならないということです。
この10年で世界中のたくさんの探査機が月に帰り、周回軌道から多くの探査を
実行しました。
そのなかにはヨーロッパ宇宙機関(ESA)の小さな探査機も含まれています。
これらの探査機は、多量の新しいデータをもたらし、月の新たな知識をもたら
すとともに、新たな謎も浮き彫りにしました。
これらの探査は我々に月全体の深い理解をもたらしました。
そして、中国の嫦娥(チャンゲ)3が口火を切った新しい表面探査計画の
準備ともなりました。

2:16
そして、新たな表面探査計画群が次に押し寄せる場所はどこでしょうか?
次の目的地はこれまで経験したどことも似ていないところです。
極端で、異質な景色が広がります。
それは、月の南極です。

2:31
ここでは、全く太陽の光がとどかない、極寒の世界が広がっています。
ここには貴重な水の氷や、その他の化学物質が凍結されています。
この低地から丘を登ると、高くそびえる頂きがあります。そこでは、
ほとんど定常的に日光が当たっています。

2:50
この極地域の山では、水平線上の太陽は滅多に沈まないので、
持続的な太陽エネルギーが得られます。
そして、眼下には岩とクレーターが彩る素晴らしい景色が広がっています。

3:08
2009年エルクロス計画が、南極地域の永久影クレーターから、水やその他の物質を
吹き飛ばしました。
そして近くの宇宙船から即座に観測しました。

3:24
我々は、その周辺も似たような極寒の世界が広がっていることを知っています。
そこにも水があるのでしょうか?
もしあるとすれば、いったいどのくらいあるのでしょうか。
そして、それらはどこから来たのでしょうか。
それらは、地球の水や生命誕生に関わる物質の起源について
何を教えてくれるのでしょうか。

3:43
これらの水は、何十億年もの間に月に落下した、小惑星や彗星からもたらされたのかも
しれません。
また、月面で生成されたものもあるかもしれません。
我々は太陽から放出された太陽風に含まれるプロトン(訳注:水素の原子核)が
月表面に打ち込まれることを知っています。そして月面で鉱物の(主成分である)
酸素と結びついて、水の薄い層をつくります。
これらの水分子は太陽に温められて一旦は蒸発し、再び月面に落ちます。
そしてこの水分子が極地方に移動してきた時、極寒の表面に凍りつき捕獲されます。

4:26
極地に立つと地球が視界に入ります。そこで、深宇宙からのわずかな電波信号を
探すためにアンテナを空に向けることができます。
しかし、地球からの電波ノイズはあまりにも大きいので、宇宙の電波源の多くを
かき消してしまいます。

4:42
しかし、裏側に移動すると、地球は月の地平線の下に沈みます。
地球からの電波ノイズがなくなると、空には、全く別の電波でみる景色が広がります。
我々はこれまで見えなかった、銀河や惑星を発見することでしょう。
そしてその先に、静かな信号、すなわち
宇宙の暗黒時代である130億年以上前、最初の宇宙の構造がつくられたころの
信号が見つかるでしょう。

5:11
今、我々の眼下にあるのは、今日の月です。
何十億年もの間の隕石衝突によるクレーターに覆われています。そして、これらのうち、
最も大きく、そして最も古いもの、それが南極エイトケン盆地です。

5:30
そこは、約40億年前の巨大衝突によって形成されました。多くの人がこの巨大衝突は
隕石が大量に地球や月に降り注ぐ激しい時代のはじまりの頃に起こったと信じています。
この時代を月大激変期(訳注:日本では、「後期重爆撃期」という言い方が普通)と呼びます。
この時代は、月面にクレーター痕跡として、記録されています。
そして、激変期の終わりは、地球の最初の生命痕跡が現れる時期と一致しています。

5:58
これからの何年間かは、月の極地の探査をすることになります。
電力源となる太陽光を月の昼の長さを超えて活用し、そして地球の生命の利益になる研究をし、
そして、我々の地球の宇宙での位置付けを理解します。

6:11
この試みは小さなロボット計画からはじまります。
その計画は、環境を調べ、新しい技術を実証し、未来へ続く道をつくります。

6:22
ますます野心的な探査計画へと移行するために、人間とロボットが一緒になって、
月面で生活し活動する方法を習得し、新しく、そして重要な科学探査をします。

6:38
この新しい探査は、過去のような国家間の競争ではなく、
国際的かつ平和的な協力によって達成されるでしょう。
そしてついには、研究と探査のための持続的な基盤施設を建設するでしょう。
その基地により、人間が生活し、働き続けられる期間が延長されます。
何年も国際宇宙ステーションで準備してきたことを、ここで実践するのです。
そして、今日の南極大陸にあるような施設が建設されるのです。

7:12
将来、月は世界中の人々が集まる場所となるでしょう。
人類共通の起源を知るために、人類共通の未来を創造するために、そして、その先の
人類共通の旅を共同で行うために。月は太陽系へと進出するための学びの場となります。

7:30
そして、おそらく将来、南極の日の当たる頂、南極の永久影クレーターの縁辺部で、
我々は資源を利用するために、クレーターの底にアクセスする方法を習得している
でしょう。クレーターの底、そこは、深く、暗い世界・・・・

7:45
どんどん拡大していくと、水の氷の分子が極寒の環境に凍りついている様子が見えます。
この水は、水素や酸素の原料となります。
それらは、人間の生命を維持するのに必須の物質であるだけでなく、
ロケットの燃料にもなります。
その燃料は、我々を太陽系のより遠くへと加速します。
宇宙への旅の次の目的地へと。

-------------------------おわり---------------------------------
以上です。

 最後のところ、私の日本語訳では、かっこよさが半減してしまってますので、
ぜひ元の英語でご鑑賞ください。
 私は、何回見ても、ここでゾクゾクっとなって、感動の涙が流れそうになります。
「人類はとうとうここまで来たんだ!そして、もっと先へ行くんだ!」と
叫びたい衝動に駆られます!
 そして、こんな照れ臭いほどに理想的な人類の未来を、本気で実現しようとがんばっている
仲間が世界中にたくさんいることに、勇気づけられるのでした。


 さて、この短期集中連載。今期は第5弾まで用意してあります。
あと二つも月曜日までに続々アップロードいたしますので、ご期待ください!



 「月をめざす世界」にもどる