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月をもっと楽しく見るために         2014年9月5日一般公開 
中秋の名月やスーパームーンなど、お月見をすることが多くなってきた今日この頃。そろそろ月見も飽きて来たというかたに、
そして、ブルーバックス「世界はなぜ月をめざすのか(略して「セカ月」)」の読者へのアフターサービスも兼ねて、ちょっと面白い月見の方法を紹介します。
<月の地質を知ってもっと楽しむ><一生に一度しかできない簡単で面白い月観察実験> をご覧下さい。

<月の地質を知ってもっと楽しむ>
高地と海の違い
月の白っぽい明るく見える部分は、高地(こうち)と呼ばれます。この部分がもともとの月の地面です。
一方、黒く見える部分は、海(うみ)と呼ばれます。ウサギがモチをついているように見えるのはこの部分です。
海は、よくみると円形の組み合わせに見えませんか?じつは海のはじまりは隕石衝突によってできた巨大クレーターなのです。
巨大クレーターの中に、後でマグマが吹き出して来て、マグマで埋め立てられた地域が海です。
月の海には水がありませんが、ドロドロに溶けたマグマがたまって固まったので、海のように滑らかな表面を持っています。

moon

月の高地は斜長岩(しゃちょうがん)でできています。
斜長岩を見る機会はめったにないと思いますので、似た岩石を紹介します。
花崗岩(かこうがん)という岩石であれば、あちこちに見られるので、探してみて下さい。
白い岩石の中に黒い鉱物や透明な鉱物が粒粒に入っている岩石で、墓石の多くは花崗岩です。また、ビルの壁や床に貼られています。
(ペットのウサギが涼むために寝っころがる石板を、妻がペットショップで買って来ました。
箱には「大理石」と書いてありましたが、中身は「花崗岩」でした(笑)。)
この花崗岩の中に入っている白い鉱物が斜長石(しゃちょうせき)で、この斜長石を集めてできた岩石が斜長岩です。

一方、海をつくっているのは、玄武岩(げんぶがん)です。
ハワイの火山がマグマを吹き上げている映像をご覧になったことがあるでしょうか。
あのマグマが固まった黒い岩石が玄武岩です。

granite
basalt
花崗岩(大理石じゃない!)
と妻のウサギ(私のペットは亀)
ハワイの玄武岩(マグマが固まったもの)を歩く火山学者

月の白いところは斜長岩、黒いところは玄武岩でできている、と想像しながらお月見するのも、ちょっと新鮮ではないでしょうか。
(実際の月の表面は隕石衝突によって粉々に砕かれて、粉になっています。)

光条(こうじょう)とは?
ティコクレーターやコペルニクスクレーターには、四方八方に白い筋が見えます。
月に見慣れて来ると、肉眼でも見えるようになります。(下の「一生に一度しかできない・・・・」をご覧下さい)。
この筋を光条、もしくは、レイと呼びます。
光条は隕石衝突そのものや、その時に吹き飛ばされた破片によって、地面が掘り返された跡(あと)です。
月の表面は宇宙放射線や、眼に見えないほど小さな隕石の衝突によって、だんだんと変質していて、
時間がたつと、赤黒くなっていきます。これを宇宙風化(うちゅうふうか)と呼びます。
赤黒くなった表面に対して、新しく掘られた場所は、やや青白いために、白い光条として見えるわけです。
光条はおおよそ10億年で、宇宙風化によって見えなくなると考えられています。
つまり、光条を持つクレーターは、最近10億年以内にできたクレーターです。

裏もあります
「世界はなぜ月をめざすのか」を読んでいただいた方から、「月の裏って見えなかったんですねー」という観測をよく聞きます。
月の裏って、案外、忘れられているかわいそうなやつだったんだなーとあらためて思います。
そういえば、月の本でも裏側の写真がでていることは少ないですものね。
本サイトをご覧のみなさんは、上の写真をご覧下さい。
「セカ月」のカバーでは、裏の画像も、表の画像と同じ高画質で、写真を載せています(まあ、裏側にではありますが・・)。

裏と表は、見かけも地形も大きく異なっています。
「セカ月」カバーの初回限定版は、地形の凹凸が印刷されているので、持っている方は、触って地形も確認してみてください。
また、カバーの凹凸加工の元データーとなった「かぐや」のレーザー高度計のデーターがこちらにありますので、
そちらもご覧下さい。

「かぐや」レーザー高度計による標高データ

月の表側は、ウサギがモチをついているように見える、海と呼ばれる部分がへこんでいます(凹凸印刷も実際の月も)。
一方、月裏側は、南半球がべっこりへこんでいるのに、黒い海ができていません。
裏側南半球のへこみは、南極エイトケン盆地と呼ばれる巨大衝突クレーターです。

裏にある最大級のクレーターになぜ海ができなかったか(=マグマが上がってこなかったのか)というのが月の大きな謎の一つで、
どうやら月は表と裏とで内部構造が大きく異なっているようなのです。

ブルーバックス「世界はなぜ月をめざすのか」のカバーは、「かぐや」のレーザー高度計のデータをもとに、
巨人が月を触ったらこんなふうに感じるかな?という凸凹をカバーにつけてみました。
初回限定版が本屋に並んでいるうちに、本屋でちょっと触ってみていただけると嬉しいです。
地球からは見る事ができない月の裏側と、ふだん見慣れている表側とを、見て、触って比べて楽しんでください。

「世界はなぜ月をめざすのか」講談社のサイトはこちら

Amazonのサイトはこちら


<一生に一度しかできない簡単で面白い月観察実験>
一生に一度しかできない実験ですが、忘れっぽい人は何度もできるかも知れません(笑)。
また、この実験は、月をよく知らない人ほど、より楽しめます。
方法は簡単です。

実験をする条件は、
  満月に近い月が見えている事。

実験に必要な小道具は、
  紙と鉛筆、そして月の画像が掲載されている本かインターネットで探した月画像
              (「セカ月」読者の方は、57頁か130頁の写真と60頁の海の地図をご覧下さい)。

では、はじめましょう!
    ステップ1  まず、肉眼(眼鏡をかけている人は眼鏡)で、月を観察して、月面に見えている模様(海の形など)を紙に描いてみてください。
           この時、大切なのは、直前に月の印刷された画像を見ないようにして、先入観なく月を観察することです。
    ステップ2  今度は、月の印刷された写真をみながら、月の海の形をスケッチしてください。
                 海の形だけでなく、ティコクレーター、 コペルニクスクレーター、アリスタルコスクレーターも描いてみましょう。
    ステップ3  再び、月を肉眼で観察してください。あーら不思議。 視力がものすごくアップしているではありませんか。
              海の形がずっとはっきりとわかるようになっているはずです。
              また、視力が1.0くらいあれば、ティコが、慣れてくるとコペルニクス、アリスタルコスも見え始めるかと思います。
    おまけ(ステップ4)  まだ眠くなってなければ、あなたの新しい眼力で実際の月を見てスケッチしてください。
                 最初のスケッチとびっくりするくらい違っているはずです。


これは、私自身の体験から発見した現象です。
月を研究するようになってから、視力が歳のせいでどんどん悪くなっているのに、
いつのまにやら肉眼でも月の地形が細かなところまで見分けられるようになっていたのです。
この現象が誰にでもおきるのかを確かめるために、秋田大学や大阪大学で、学生を集めた月観測会の時に、
何度も学生にもやってもらいました。そして、ほとんどの学生が自分の視力の変化にびっくりしたのです。

この実験でわかる大切なことは二つです。
大切なこと1  「知識があると、普通の人が見えないものまで見えてくる」
大切なこと2  「スケッチをすることで、<目に映る>が<見える>になる」

は体験していただけたと思います。
はもう少し説明しましょう。眼に入っているものが、本当に見えているわけではありません。
眼に映っているものを脳が理解してはじめて形が認識されます。
この理解のプロセスを助けるのがスケッチです。
私は、野外地質観察実習や、岩石を薄くした試料の顕微鏡観察の講義で学生に観察スケッチをしてもらっています。
もちろん、自分も、地質調査の時には、大切な場所をスケッチします。
「スケッチをしましょう」と言うと、「自分は絵が下手だからデジカメで写真を撮ります」という学生が少なからずでてきます。
しかし、スケッチの意味は、「記録」だけではなく、「人間の観察能力を上げる」ことが大きいのです。
実際、デジカメで撮影した景色の特徴はすぐに忘れてしまいますが、スケッチしたところは細かなところまで思い出すことができます。
また、スケッチをはじめると、デジカメに写らない細かな特徴や微妙な色の変化まで見えてくるようになります。
ぜひスケッチを通して<自分の観察能力がびっくりするほど高まる体験>をしていただければと思います。
月の写真をスケッチして「月のどこに何が見えるはずか」を知ることで、あなたの眼力があがるのです。

最初の月がよく見えてないときのスケッチ、これは、もう、月を知るあなたは二度と描く事ができません。
記念に保存しておきましょう。

一度見えるようになってしまうと、見えない自分には戻れないのです。
まさに、一生に一度しかできない実験です。
(忘れっぽい人なら、もう一度同じ体験ができるのか?私にもわかりません。できた人がいたら、教えてください。)


では、みなさん、「お月見」楽しんでくださいね!


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